居酒屋のスケルトン工事にかかる費用とは？工事の流れや施工業者の選び方についても徹底解説

スケルトン工事とは？

スケルトン工事とは、物件内部をすべて解体し、コンクリートの構造体だけを残す状態に戻す工事のことを指します。居酒屋の出店において、このスケルトン物件を選ぶかどうかは、内装の自由度や開業費用に大きく関わってきます。

既存の内装がすべて撤去されている状態から店舗を作り上げるため、レイアウトやコンセプトをゼロから自由に設計できる反面、初期投資が高くなりやすいという特徴があります。

スケルトンと居抜きの違い

店舗開業において、スケルトン物件としばしば比較されるのが「居抜き物件」です。違いは以下のように明確です。

この違いをしっかりと理解しておくことで、予算計画と店舗設計に無理のない選択が可能になります。

居酒屋におけるスケルトン内装工事の流れ

物件選定から工事開始までの手順

居酒屋のスケルトン内装工事は、単に「内装を作る」作業ではありません。実際には、計画段階から業者選定、設計、設備配置の検討など多くのステップを踏みます。主な流れは以下のとおりです。

1. スケルトン物件の選定
2. 現地調査・インフラ確認（電気・水道・排気など）
3. 内装デザインとレイアウト設計
4. 工事見積もりの取得と施工会社の選定
5. 内装工事開始
6. 各種設備（厨房機器・照明・空調）の設置
7. 内装仕上げと検査
8. 保健所・消防などへの申請と許可取得
9. 開業準備・オープン

この一連の流れには多くの人と業者が関与し、それぞれの段階で費用も発生します。そのため、事前の計画と予算管理が成功の鍵となります。

工期の目安と季節要因

スケルトン工事にかかる期間は、工事内容や規模によって変わりますが、一般的な居酒屋（20〜30坪程度）であれば、おおよそ2〜3ヶ月が目安とされています。ただし、年末年始や大型連休の前後は施工業者の予定が詰まりやすいため、余裕をもったスケジューリングが求められます。

スケルトン内装工事にかかる主な費用項目

内装費用の内訳と相場感

スケルトンから始める居酒屋づくりにおいて、主にかかる費用は以下のように分類されます。

物件の状態や立地、希望する内装のグレードによってこれらの費用は前後します。とくに飲食店の場合、保健所の規定に適合した厨房設計が必須となるため、厨房設備費用は一般店舗よりも高くなりがちです。

コストダウンを図るポイント

費用を抑えながら理想の空間を実現するには、いくつかの工夫が有効です。たとえば、以下のような方法があります。

• 使用可能な中古厨房機器を活用する
• DIYで可能な範囲（装飾、棚設置など）を分離発注にする
• 水回りの移動を最小限にする（配管工事費削減）
• 照明や家具に既製品を使用する

これらの手法をうまく取り入れれば、数十万円単位でコストを抑えることも十分可能です。

店舗タイプによる費用の違い

路面店とテナントビルで変わるコスト構成

スケルトン工事の費用は、物件の立地や形状によっても大きく変動します。とくに「路面店」と「テナントビル（ビルイン物件）」では、施工のしやすさや設備導入の自由度が異なります。

路面店は搬入・搬出が容易で、排煙や空調の設置も比較的自由度が高い一方、賃料が高めになる傾向があります。テナントビルは既存のダクト・インフラが整っている場合もありますが、ビル側の規定に従わなければならず、計画段階での調整に手間がかかることもあります。

開業前に「どの物件が自分のコンセプトに合うか」をしっかり見極めることが、コストの最適化にもつながります。

地方と都市部の価格差

同じスケルトン工事でも、都市と地方では費用が1.2〜1.5倍程度変動することがあります。理由は、施工業者の人件費、資材運搬費、賃料相場などが大きく異なるためです。特に東京23区内や大阪中心部などは、物件取得コストと施工費が高くなりやすい地域といえるでしょう。

地方での開業は初期投資を抑えやすい反面、ターゲット層や集客導線の戦略が重要となります。

厨房・水回り設備にかかる費用と注意点

厨房設計はコストと導線のバランスが鍵

居酒屋のスケルトン工事において、厨房は費用の大きな割合を占めます。厨房の設計次第で作業効率やサービススピードが大きく変わるため、無駄のないレイアウトと設備配置が重要です。

たとえば、カウンター越しに提供する業態であれば、調理スペースと提供スペースの動線を直線で結ぶように設計することで、作業時間を短縮できます。反対に、バックヤードを広く取りすぎてしまうと客席が減り、売上効率が下がる可能性もあります。

給排水・ガス・電気設備の接続とその費用

居酒屋では水と火の使用量が多いため、給排水およびガスの配管工事が必須となります。これらの配管位置が物件の基本設計と合っていない場合、大きく費用が膨らむこともあります。

また、電気についても、容量の増設が必要になるケースが多く、分電盤の交換や専用回線の敷設などが追加費用として発生します。予算組みの際には、これらの「見えない工事」にも余裕を持たせておくことが大切です。

空調・換気・排煙設備の導入ポイントと費用

換気不足は営業許可にも影響

居酒屋は調理の煙・油・臭いが多く発生するため、換気や排煙の設計は非常に重要です。不十分な換気計画は、保健所からの指摘対象となるだけでなく、来店客の快適性や従業員の健康にも直結します。

特に焼き鳥や鉄板焼きなど、煙の出る業態では、強力な排煙ファンの導入とダクトの適切な配置が不可欠です。排煙ダクトの経路が長すぎたり、折れ曲がりが多いと、換気効率が落ち、騒音や異臭の原因にもなります。

繁盛する居酒屋の内装デザインとスケルトン活用術

コンセプト設計で集客力は決まる

スケルトン物件は“まっさらな状態”から空間を創るため、デザインの自由度が高く、店舗コンセプトを明確に反映させることができます。繁盛店には例外なく「一貫したコンセプト」が存在し、それが空間設計や照明、素材選び、音楽のトーンにまで及んでいます。

たとえば「和モダンの隠れ家」をテーマにする場合は、間接照明、無垢材の仕上げ、静かなBGMなどが効果的です。一方で、「賑やかさと活気」が売りの大衆居酒屋ならば、オープンキッチンとカウンター、提灯の赤い照明などが集客につながります。

スケルトンから作るからこそ、“中途半端なデザイン”ではなく“選ばれるための空間”を構築する必要があります。

メニューと動線から逆算する内装設計

内装は「見た目」だけではありません。人気メニューの提供スピードや作業効率を考慮した「導線設計」も、売上を左右する重要な要素です。

焼き場とカウンターの位置関係、厨房とホールの視認性、オーダーから提供までの流れがスムーズであれば、回転率が上がり、ピークタイムでも対応しやすくなります。

スケルトン物件では、配管や間仕切りを自由に決められるため、「メニューと業態に最適化された空間づくり」が叶います。

初めての開業でやりがちなスケルトン内装の失敗例

無理なコスト削減で品質が犠牲に

初めてスケルトン物件で店舗を立ち上げる方が陥りやすいのが「過度なコストカット」です。たとえば、安価な業者に一括で依頼し、設計と施工の両方で質が担保されず、開業後に設備トラブルや保健所の指摘を受けるケースがあります。

また、厨房や空調など“目に見えない部分”にお金をかけないまま見た目だけを整えてしまうと、長期的な運営コストやメンテナンス費用が増大してしまう可能性も高まります。

開業までのスケジュールに余裕がない

スケルトンからの内装工事には、想像以上に時間がかかります。設計変更や施工中のトラブル、行政手続きの遅れなどを見越して、少なくとも3ヶ月以上の準備期間を確保すべきです。

「間に合わせ」で完成させてしまった内装では、満足なサービスが提供できず、開業直後に悪い評判が立ってしまう恐れもあります。

費用負担を抑える制度やサービスの活用

厨房機器や家具のリース活用

高額になりがちな厨房機器や椅子・テーブルなどの設備は、リースや中古品の導入を検討することで、初期費用を抑えることが可能です。リース契約には月額支払い・メンテナンス込みなどのメリットがあり、資金繰りに余裕がない開業初期には特に有効です。

補助金・助成金の活用

地域によっては、創業支援として「内装費補助」「設備導入支援」「省エネ機器導入助成」などの制度があります。補助金は採択制で審査があるものも多いため、事業計画書の提出や、着工前の申請が必要です。

市区町村・商工会・都道府県の制度は毎年更新されるため、開業計画の初期段階からリサーチを行い、プロに相談するのも良いでしょう。

スケルトン物件の選び方と見るべきポイント

立地だけではない“見えない条件”

スケルトン物件を選ぶ際、多くの方が「駅からの距離」や「通行量」などの立地条件に注目しますが、それだけでは不十分です。特にスケルトン状態では、設備の配管や電気容量、天井の高さ、ダクトの通り道などが使用できる状態にあるかを確認しなければ、後々大きな追加費用が発生する可能性があります。

見た目には同じように見えても、基礎インフラの状態が違えば、100万円単位で費用差が出るケースもあります。

契約前に確認したい不動産契約条件

スケルトン物件の賃貸契約では、一般的な居住用物件とは異なる特別な条件が盛り込まれることが多くあります。特に注意すべきなのが「原状回復義務」です。入居時点で内装がないにもかかわらず、退去時に“元のスケルトン状態”に戻す費用を全額負担させられる場合があります。

このようなトラブルを避けるためには、契約時に以下のような条項を確認することが重要です。

スケルトン工事を依頼する施工業者の選び方

業種特化の業者がベストな理由

居酒屋のスケルトン工事では、一般住宅のリフォーム業者ではなく「飲食店内装に特化した施工業者」を選ぶことが成功への近道です。厨房設備の規格、保健所対応、排煙・排水のノウハウなど、飲食店ならではの事情を理解している業者であれば、設計・施工の質が圧倒的に違います。

特に、見積もり時点で厨房レイアウトや電気容量の不足を指摘してくれる業者は信頼できます。逆に、設備に詳しくない業者では、後々「これでは営業できません」と言われるようなミスにつながることも。

相見積もりと比較のポイント

施工業者を選定する際は、必ず複数の業者に相見積もりを取り、以下のような項目で比較検討します。

このように、見積額の安さだけで決めるのではなく、実績と提案力、対応力を見極めることが肝心です。

スケルトン工事の資金計画と融資の準備

自己資金と融資のバランスを見極める

スケルトン工事による居酒屋開業では、初期費用が数百万円から1,000万円を超えることも珍しくありません。そのため、自己資金だけでまかなうのは現実的でないケースも多く、金融機関からの融資を視野に入れた資金計画が重要です。

飲食業の開業においては、日本政策金融公庫（国金）や信用金庫を中心に、創業融資の制度が整備されています。特にスケルトン物件では「物件取得費」「内装設備工事費」「運転資金」の三本柱で資金が必要となるため、融資審査でも綿密な事業計画書と見積書が求められます。

融資の相談は開業予定の4〜5ヶ月前から開始すると、余裕を持って準備ができます。

SNS時代の集客を意識した内装設計

インスタ映えだけではない「記憶に残る空間」

現代の飲食店集客において、SNSでの拡散効果は無視できません。内装の一部に写真映えするスポットを設けたり、メニュー提供時の演出を工夫することで、自然とシェアが広がる仕掛けをつくることが可能です。

たとえば、照明と壁の組み合わせで映える一角を設けたり、ネオンサインや筆文字の暖簾を配置するなど、視覚的に印象に残る空間を作ることで、広告費をかけずとも集客につながることがあります。

SNSを意識した内装は、単なる流行ではなく「デジタル時代の口コミ導線」として戦略的に考えるべきポイントです。

リピーターを生む居心地と動線の設計

滞在時間を快適にする空間心理学

集客ができても、リピーターが増えなければ店舗は安定しません。そのためには、「何度でも行きたくなる居心地」を追求する必要があります。居酒屋では特に「座席のレイアウト」「音環境」「照明の明るさ」が、滞在時間や再来率に直結する要素です。

たとえば、照明が明るすぎると落ち着かず、暗すぎると料理が映えません。隣席との距離感が近すぎるとプライバシーが損なわれます。スケルトンから設計するからこそ、最初から快適性を計算に入れた設計が可能です。

空間が心地よければ、「また行きたい」と自然に思ってもらえる。それこそがスケルトン物件活用の大きな強みです。

スケルトン物件の契約前に確認すべき消防・保健所対応

消防法・食品衛生法のチェックは必須

スケルトン物件を活用して居酒屋を開業する際には、消防法や食品衛生法に基づいた設備設計が必須です。防火区画、排煙設備、避難経路の確保といった消防対応、厨房の床材や手洗い場の設置などの衛生基準が満たされていなければ、営業許可が下りません。

内装設計の段階でこれらを無視すると、工事完了後に「保健所NG」となり、再施工が必要になりかねません。設計士や施工業者が法令対応に精通しているかも重要な選定基準です。

スケルトン工事後のインテリア・什器選定術

内装と調和する什器で世界観を仕上げる

内装工事が完了しても、それだけでは“完成”とは言えません。椅子・テーブル・照明・アートパネル・装飾植物など、インテリアの選定こそが居酒屋の印象を左右します。スケルトン物件は空間全体をデザインできるため、世界観に合った什器選びが成否を分けます。

テーマに応じて素材を統一するのが基本です。木を基調にした空間ならば、ウォールナット系の家具でまとめたり、和風なら藍染調のファブリックや竹製品を取り入れると統一感が出ます。

トイレ・バックヤードの設計とその重要性

利益に直接関わる“見えない場所”

居酒屋の設計で軽視されがちなのが、トイレとバックヤードです。しかし、これらの空間は顧客満足とスタッフの働きやすさに大きな影響を与える要素です。

トイレは男女別、清掃しやすい床材・明るさ・換気が重要です。バックヤードも、休憩スペースや備品保管場所、仕込み台などの動線を整えることで、サービスの質が向上します。

音響と照明で変わる居酒屋の雰囲気づくり

視覚と聴覚の演出が空間体験を左右する

スケルトンからの店舗づくりでは、音と光の設計も空間デザインの一部です。照明は雰囲気を決め、音響は居心地を決めます。LED照明を用いてエリアごとに明るさを調整したり、壁面に吸音材を仕込んで声が響きすぎないようにするなど、細やかな設計がリピート率を左右します。

営業後のメンテナンス・原状回復を見据えた設計

初期工事から“閉店時”を見越すプロの視点

居酒屋開業時は「始めること」に集中しがちですが、実はスケルトン物件こそ「終わる時」の計画も重要です。原状回復時の工事費を抑えるためには、床材や壁材に“剥がしやすさ”や“再利用性”を考慮した設計が有効です。

また、営業後の清掃性や配管のアクセス性も含めて「メンテナンス性」を重視すれば、日々の管理負担が減り、長く清潔な店舗環境を保つことができます。

居酒屋のスケルトン工事に関するよくある質問（FAQ）

スケルトン物件と居抜き物件、どちらがコスト的に有利ですか？

初期費用の面では居抜き物件の方が有利です。ただし、設備やレイアウトの自由度を求めるならスケルトン物件がおすすめです。長期的な視点で見れば、スケルトンのほうが理想に近い店舗設計が可能となり、ブランディングや回転率向上に寄与するケースもあります。

スケルトン工事にかかる期間はどのくらいですか？

規模にもよりますが、20〜30坪の居酒屋であれば2〜3ヶ月が目安です。設計・施工・保健所などの手続きも含めて、全体で3〜4ヶ月程度を想定しておくと安心です。

初めてでもスケルトン物件で居酒屋を開業できますか？

可能です。ただし、信頼できる設計者や施工業者の協力が不可欠です。経験者のサポートを受けながら、計画・予算・工程をしっかり立てて進めることが成功の鍵となります。

厨房設備はリースと購入、どちらがおすすめですか？

予算に余裕がない場合はリースが有効です。導入コストを分散でき、メンテナンス付きの契約もあります。長期的に使用するなら購入の方が経済的になる場合もあります。

内装費用の見積もりで「一式」と書かれていたら注意が必要ですか？

はい。「一式」とだけ記載された見積もりは内容が不透明なことが多いため、内訳の明示を求めましょう。比較検討するには、できるだけ細かく項目分けされた見積もりが理想です。

換気・排煙の設備はどの程度の性能が必要ですか？

業態や提供メニューによりますが、焼き物中心の居酒屋では強力な排煙設備が必須です。排気能力と騒音対策のバランスを取りながら設計する必要があります。

補助金や助成金は利用できますか？

はい、自治体によっては創業支援の補助金が用意されています。申請には事業計画書や見積書が必要な場合が多く、着工前に申請が必要です。地元の商工会議所や行政窓口に早めに相談することをおすすめします。

賃貸契約時に注意すべきポイントは何ですか？

「原状回復義務」の範囲、工事の制限、共有部分の使用規約などを必ず確認しましょう。スケルトン物件でも退去時に追加費用が発生することがあります。

スケルトン物件はどこで探せばいいですか？

不動産ポータルサイト、店舗専門の不動産会社、居抜き専門業者などで検索可能です。施工業者が物件紹介を兼ねていることもありますので、相談してみると良い情報が得られる場合もあります。

スケルトンから内装を作る最大のメリットは何ですか？

内装・設備・導線すべてをゼロから設計できる点です。自店の強みやコンセプトに最適化された空間を作ることで、ブランディングや収益性向上に直結する店舗が実現できます。

まとめ：居酒屋のスケルトン工事、その費用について

スケルトン物件を活用した居酒屋開業は、自由度が高い反面、コストや手間もかかる選択です。しかし、それをしっかりと計画的に進めることで、自分の思い描く店舗を一から形にできるという大きな魅力があります。

厨房・設備・導線・雰囲気・照明・音響・家具――そのすべてが自分の意思で設計できるスケルトン工事は、単なる「内装工事」ではなく、“お店の個性”を表現する工程でもあります。

初期費用はかかりますが、その分だけ自店らしさを演出でき、競合との差別化も図れます。スケジュール・予算・業者選定・法規対応など、あらゆる側面での準備が必要となりますが、そのプロセスを経た先には、納得のいく店舗づくりと、長期的に支持されるお店が待っています。

自分だけの一軒をつくる――その夢に向かって、スケルトン物件からの挑戦を始めてみてはいかがでしょうか。

CG STUDIO